【事例16】法定相続分の払い戻し

相談内容

Xさんが2年前に亡くなったご主人の相続手続きがまだ済んでいないとの事で相談に来られました。相続人は奥様のXさんと、お子さん2人の長女Yさんと同居している二女Zさんの合計3人。Xさんは、四十九日の法要の時に遺産分けの話をし、その時にご主人名義の預金通帳もYさん、Zさんに見せたそうです。
すると、Yさんが「お父さんは株も持っていたはずじゃない?」と。その後、XさんとZさんは以前お付き合いのあった証券会社や信託銀行に株を持っていたのかを確認に行きました。しかし、それらしい株は出てきませんし、半年たっても配当金の通知書も議決権行使の通知も届きませんでした。
Yさんにそのことを伝え、遺産分割をしようと話を持ちかけたのですが、Yさんは、XさんとZさんが共謀して遺産を隠していると思い込んでしまったようです。その後、法事などで顔をあわせても、挨拶はしても、それ以降、遺産の話は全くすることがないまま2年の月日が経過しました。

Xさんは最近、がんが見つかり手術費用の捻出や今後生活の為に、何とかご主人の預金を解約したいが、どうしたらいいかと困っておられました。

解説

まずは再度、相続人全員での遺産分割協議を試みてもらいましたが、案の定、Yさんからは全く返答がありませんでした。
そこで、各銀行と相談し、法定相続分での払い戻しへの協力を求めました。
銀行は、払い戻しには相続人全員の同意を必要とするのを基本原則としていますが、Xさんの事情を説明したところ、時間は要したものの、Xさんの法定相続分に応じた持分だけの払い戻しに応じていただきました。

ポイント!

●故人名義の銀行口座の相続

銀行が何らかの方法により預金者の死亡を知った場合は、その故人の口座は凍結され入出金は停止されます。相続人が自由に払戻をすることができなくなるだけでなく、振込や引き落としもできません。電気やガスなどの日常取引を故人の口座からの自動引き落としにされている場合は注意が必要です。
この銀行に対する故人の預金債権については、相続人が自己の法定相続分に応じて払戻しを受けることができます。
最高裁は、「相続人が数人ある場合において、その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する」と判示しています(最判昭和29年4月8日)。銀行に対する預金債権は可分債権となりますから、各相続人は法定相続分の範囲で払い戻しを受けることができることになります。もっとも、遺言により遺産分割方法の指定や相続分の指定、遺贈がなされた場合は、遺言に基づく承継がなされますので、払戻を受けることはできません。また、相続人間において遺産分割の対象とする合意がある場合も同様です。なお、実務上は、各銀行は相続人全員の同意に基づく、全額の解約や名義変更を基本としています。

●相続の放棄をした者による管理

相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない、と民法第940条にあります。ということは放棄をしても先に説明した相続財産の管理人が選任されるまでは、本来の相続人全員が相続財産の管理をしなけれ ばならないということになります。
例えば、家屋があった場合にその家屋が老朽化して、今にも崩れてしまいそうな場合などは、放棄をしたと言っても管理が必要となります。

株式や個人向け国債、投資信託受益権は、その権利の内容や性質により、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されないという判断が、昨年、最高裁により示されました(最判平成26年2月25日)。預金債権の場合と異なり、相続人全員の同意がない限り、法定相続分といえども払戻を受けることはできません。