【事例37】封がされた二つの封筒

相談内容

『夫Xが亡くなり、X名義の預金の払い戻しができなくて、困っています。遺言書もあるのですが、どのように手続をしたらいいか…』とAさんが相談に来られました。
AさんとXさんとの間には子供がおらず、その代わりにXさんには前妻との間に長女Bさんと二女Cさんがいるそうです。不動産の名義変更や預貯金の解約には相続人全員での遺産分割協議が必要となるところですが、この二人の内、Cさんは現在Xさん名義のマンションに住んでおり親しく交流があるものの、Bさんとは長年交流がありません。
それどころか、Bさんは父Xさんにお金の無心を繰り返し、Xさんから勘当状態にあったというのです。
このBさんとの遺産分割協議は難航することが予想されました。

解説

Xさんは、そのことを予期して遺言書をAさんに残していたのでしょう。書斎の棚に封がされた封筒が二つ保存されていました。一つは『遺言書』と書かれています。もう一つは、『Bが相続人廃除に応じないときは開封すること』とだけ書かれていました。どうやら、遺言書にはBさんを相続人廃除することが書かれているようです。Aさんによると遺言書を書いたのは10年位前だということで、Xさんが亡くなってもAさんがこの家に住み続けられるようにと、遺言書を書いたことをAさんに伝えたそうです。
早速、家庭裁判所で遺言書の検認を行いました。検認の際には、裁判所より各相続人に対して期日の通知がされます。裁判所へはBさん、Cさんお二人ともお越しになりました。相続人全員が揃い、遺言書の開封が行われました。
遺言書には、二つあるXさん名義の不動産の内、自宅はAさんに、もう一つのCさんがお住まいのマンションについてはCさんに相続させるとあり、そしてBさんに対しては既に生前に多額の贈与をしたから相続させないとありました。「相続人廃除」という言葉は書かれていませんでした。Bさんは一言も発しないまま裁判所を後にされました。遺言書は不動産のみについて書かれ、預金については何も触れられていませんでした。この場合、預金の解約については、BさんCさんの同意が必要になります。遺言書にはBさんに相続させない理由が詳しく書かれており、妹のCさんによるとBさん自身もそれを自覚し納得しているようだとのことで、Bさんは預金の解約に素直に応じ、預金は全てAさんが受け取られました。
『Bが相続人廃除に応じないときは開封すること』と書かれた封筒は、封が開けられることはありませんでした。

ポイント!

●推定相続人の廃除

被相続人が推定相続人に自分の財産を相続させたくないとき、遺言を作成することが考えられますが、たとえ遺言を残しても、遺留分を有する相続人(配偶者や直系卑属、直系尊属)から遺留分減殺請求をされると、法定相続分の一定割合を相続することになり、被相続人の希望どおりの結果にはなりません。
そこで遺留分を有する相続人から相続権をはく奪するために「推定相続人の廃除」という制度があります。これは被相続人が生前に家庭裁判所に申立てるか、又は遺言書でその意思を表示し、遺言執行者が家庭裁判所に申立てをして行います。申立は、被廃除者が遺留分を有する推定相続人であり、その被廃除者が被相続人に対して虐待をし、若しくは重大な侮辱を加えたとき、又はその被廃除者に著しい非行があったときに請求することができますが、申し立てを行っても、なかなか認められないというのが現状のようです。
今回のケースで、実際に家庭裁判所に申立てを行ったとして、廃除の決定がなされるかは難しいところだったかもしれません。なお、廃除の決定がなされても、被相続人はいつでも(遺言でも)廃除の取消を家庭裁判所に申立てることができます。