【事例64】相続手続は完了したものの…

相談内容

Xさんのご相続人は、妹のAさんの他、兄のBさん、既に他界した兄Cさんの子である甥Dさんの3人です。Bさんとは、何十年も交流がなく住所も分からなかったため、お母様の死も伝えられていませんでした。甥のDさんとは、連絡が取れる程度のお付き合いということでした。
Xさんは、妹Aさんとの老後のことも考え、定期預金で貯金をしていました。
ご自宅は都営住宅で、相続財産はその預貯金となります。
生活費もままならないAさんは、一日でも早く相続手続をして、預金の解約手続を行わなくては、暮らしていけません。そこで、センターでBさんの住所を調べ、Aさんから手紙を出してもらうことになりました。Aさんとしては、一緒に生活をしていましたし、Xさんがふたりの老後に、と備えて蓄えてくれていた預貯金は、全額受け取りたいと希望しました。しかし、Bさんからの回答は、法定相続分の3分の1での分割しか認めないというものでした。
その後、Aさんは何度か交渉を試みましたが、答えは変わらず、交渉を重ねる度に、Bさんとの話し合いはこじれてしまったようです。DさんはAさんに同情的でしたが、結局、Bさんに押し切られる形で、Aさん、Bさん、Dさん3分の1ずつという内容で遺産分割協議が成立しました。
Aさんは、これまでとは違い、高齢ながらもご自身で働かなければならず、頼りにしていた預貯金も少なくなり、相続手続が完了しても、なお途方にくれる状況でした。ただ、今回の相続により、甥のDさんと交流が深まり、何かと気にかけ、サポートしてくれているそうです。Aさんにとっては、頼りにできる親族ができたことが何よりの救いでした。

結果

養子も実子と同じく、第一順位の相続人となりますので、Xさんの相続人はBさん一人となります。
相続人が一人の場合、基礎控除額は3600万円(3000万+600万×法定相続人数)と低く、Xさんがお持ちのアパート兼自宅や多額の金融資産を加えると、Bさんの相続税の負担は大きいものとなってしまいます。
アパート兼自宅がある土地や駐車場は、諸要素を考慮して、できるだけ低額になるよう評価を行い、少しでも相続税の負担が少なくなるよう、申告しました。
ところで、お子様がいらっしゃらない方には、養子縁組の他に遺言を遺すという相続対策もあります。
仮にBさんに遺贈するという遺言書があった場合、Xさんは7人兄弟で、その内、亡くなった方もいるようですから、法定相続人は10人近くになりそうです。
相続税の計算における基礎控除額は、法定相続人が多いほど高くなるため、Bさんはその恩恵を受けて、相続税額が2割増しにはなるものの、相続税の負担が大幅に軽減された可能性があります。
もっとも、養子縁組をして相続人が一人という場合、様々な手続きがスムースに行くというメリットがあります。また、XさんがBさんを我が子のように可愛がっていた事実からすれば、Xさんが養子縁組を選択されたことはとても意味があったことだと思います。

ポイント!

子供がいない兄弟姉妹の相続

●法定相続分の割合

お子様がいない高齢の兄弟姉妹が、助け合いながら一緒に暮らしているご家庭を見かけます。子供がいない方が亡くなり、ご両親(直系尊属)が既に亡くなっている場合には、兄弟姉妹(亡くなっていれば甥姪)が相続人となりますが、その兄弟姉妹が生計を一にして一緒に暮らしていたとしても、法定相続分は、離れて住んでいる他の兄弟姉妹と変わることはありません。遺産の配分を多く得るには、遺産分割協議において他の兄弟姉妹の合意を得なければならないのです。
今回の場合、Xさんがすべての財産をAさんにという遺言書を書いていれば、Bさんの合意を取り付ける必要もなく、Aさんの心労はいくらか軽減できたことでしょう。

 

●預貯金の払戻し制度の創設

今般の民法改正により、相続人の当面の必要な生活費について、遺産分割前でも払戻ができる制度が創設されました。(2019年7月1日施行)
預金の解約には相続人全員の合意が必要ですが、事情により難しい場合には、当面の生活費や葬儀費用の支払いのために預金の一部払い戻しが可能となります。この制度を使えば、Aさんは協議を急ぐことなく、時間をかけてBさんとの話し合いができたかもしれません。

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